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撥水・撥油性付与剤、撥水・撥油性付与方法および撥水・撥油材

(書誌+要約+請求の範囲)

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開平10−140143
(43)【公開日】平成10年(1998)5月26日
(54)【発明の名称】撥水・撥油性付与剤、撥水・撥油性付与方法および撥水・撥油材
(51)【国際特許分類第6版】
C09K 3/18 102
104
B05D 5/00
C08J 7/04
【FI】
C09K 3/18 102
104
B05D 5/00 F
C08J 7/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】FD
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願平9−94658
(22)【出願日】平成9年(1997)3月27日
(31)【優先権主張番号】特願平8−225927
(32)【優先日】平8(1996)8月7日
(33)【優先権主張国】日本(JP)
(31)【優先権主張番号】特願平8−265498
(32)【優先日】平8(1996)9月12日
(33)【優先権主張国】日本(JP)
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号
(72)【発明者】
【氏名】掛川 宏弥
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】田尻 博幸
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富徳
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(74)【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦



(57)【要約】
【課題】 基材の表面に対して簡便に撥水・撥油性を付与する。
【解決手段】 撥水・撥油性付与剤は、アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を表面に有する基材の当該表面に対して撥水・撥油性を付与するためのものである。この撥水・撥油性付与剤は、液状に調製されかつ上記官能基群から選ばれた官能基と化学反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を含んでいる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を表面に有する基材の前記表面に対して撥水・撥油性を付与するための撥水・撥油性付与剤であって、液状に調製されかつ前記官能基群から選ばれた前記官能基と化学反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を含む、撥水・撥油性付与剤。
【請求項2】前記化学構造部位がモノフルオロカーボン構造部位および酸無水物構造部位のうちの少なくとも一つである、請求項1に記載の撥水・撥油性付与剤。
【請求項3】前記フッ化化合物がモノフルオロカーボン構造部位および酸無水物構造部位のうちの少なくとも一つを有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体、並びにフッ化ピッチからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載の撥水・撥油性付与剤。
【請求項4】モノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方と反応可能な官能基を表面に有する基材の前記表面に対して撥水・撥油性を付与するための撥水・撥油性付与剤であって、液状に調製されかつ前記モノフルオロカーボン構造および前記酸無水物構造のうちの少なくとも一方を有するフッ化化合物を含む、撥水・撥油性付与剤。
【請求項5】基材の表面に対して撥水・撥油性を付与するための撥水・撥油性付与方法であって、アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を付与可能な表面処理剤を用いて前記基材の前記表面を処理する工程と、前記表面処理剤を用いて処理された前記表面を、前記官能基群から選ばれた前記官能基と反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を用いてさらに処理する工程と、を含む撥水・撥油性付与方法。
【請求項6】前記表面処理剤は、前記官能基群から選ばれた少なくとも一つの前記官能基を有するシランカップリング剤、前記官能基群から選ばれた少なくとも一つの前記官能基を有するチタネート系カップリング剤および前記官能基群から選ばれた少なくとも一つの前記官能基を有する有機クロム系カップリング剤からなる群から選ばれたものである、請求項5に記載の撥水・撥油性付与方法。
【請求項7】基材と、前記基材の表面に配置された、フッ化化合物による撥水層とを備え、前記基材は、前記フッ化化合物と化学反応可能な官能基を前記表面に有している、撥水・撥油材。
【請求項8】前記基材の前記官能基が、前記フッ化化合物と化学結合している、請求項7に記載の撥水・撥油材。
【請求項9】アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を表面に有する基材を備え、前記基材の前記表面は、前記官能基と化学反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を用いて処理されている、撥水・撥油材。
【請求項10】前記官能基群から選ばれた前記官能基は、表面処理剤を用いて前記基材の前記表面に付与されている、請求項9に記載の撥水・撥油材。

詳細な説明

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、撥水・撥油性付与剤、撥水・撥油性付与方法および撥水・撥油材、特に、所定の官能基を表面に有する基材の当該表面に対して撥水・撥油性を付与するための撥水・撥油性付与剤、基材の表面に対して撥水・撥油性を付与するための撥水・撥油性付与方法、およびフッ化化合物を用いた撥水・撥油材に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】ガラス、金属または樹脂などの材料は、繊維状、粒状、板状あるいはブロック状などの各種形状に成形され、広範な分野で利用されている。ところで、このような材料からなる製品は、利用分野によっては撥水性や撥油性などが要求される場合がある。一般に、上述の各種材料からなる基材の表面に撥水・撥油性を付与する場合は、当該基材の表面を撥水・撥油性付与剤を用いて処理している。このような目的で用いられる撥水・撥油性付与剤としては、例えばテフロンなどに代表されるフッ素樹脂が広く知られている。ところが、フッ素樹脂は、高価であり、また、一般に溶媒に不溶であって融点、軟化点が高く取り扱いが困難であるため、上述のような基材に対して簡便に耐久性のある撥水・撥油性を付与するのは困難である。
【0003】本発明の目的は、基材の表面に対して簡便に撥水・撥油性を付与することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明に係る撥水・撥油性付与剤は、アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を表面に有する基材の当該表面に対して撥水・撥油性を付与するためのものである。この撥水・撥油性付与剤は、液状に調製されかつ上記官能基群から選ばれた官能基と化学反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を含んでいる。
【0005】ここで、フッ化化合物に含まれる化学構造部位は、例えば、モノフルオロカーボン構造部位および酸無水物構造部位のうちの少なくとも一つである。また、フッ化化合物は、例えば、モノフルオロカーボン構造部位および酸無水物構造部位のうちの少なくとも一つを有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体、並びにフッ化ピッチからなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0006】また、本発明に係る他の撥水・撥油性付与剤は、モノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方と反応可能な官能基を表面に有する基材の当該表面に対して撥水・撥油性を付与するためのものである。この撥水・撥油性付与剤は、液状に調製されかつモノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方を有するフッ化化合物を含んでいる。
【0007】本発明に係る撥水・撥油性付与方法は、基材の表面に対して撥水・撥油性を付与するためのものである。この方法は、アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を付与可能な表面処理剤を用いて基材の表面を処理する工程と、表面処理剤を用いて処理された基材の表面を、上記官能基群から選ばれた官能基と反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を用いてさらに処理する工程と、を含んでいる。
【0008】ここで、表面処理剤は、例えば、上記官能基群から選ばれた官能基を有するシランカップリング剤、上記官能基群から選ばれた官能基を有するチタネート系カップリング剤および上記官能基群から選ばれた官能基を有する有機クロム系カップリング剤からなる群から選ばれたものである。
【0009】本発明に係る撥水・撥油材は、基材と、当該基材の表面に配置された、フッ化化合物による撥水層とを備えている。基材は、フッ化化合物と化学反応可能な官能基を表面に有している。
【0010】ここで、基材の官能基は、通常、フッ化化合物と化学結合している。
【0011】また、本発明に係る撥水・撥油材は、アミノ基および水酸基からなる官能基群から選ばれた少なくとも一つの官能基を表面に有する基材を備えている。この基材の上述の表面は、そこの官能基と化学反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を用いて処理されている。
【0012】ここで、上記官能基群から選ばれた官能基は、例えば、表面処理剤を用いて基材の表面に付与されている。
【0013】
【発明の実施の形態】
撥水・撥油性付与剤本発明の撥水・撥油性付与剤は、アミノ基や水酸基などの官能基、言い替えると、後述するモノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方と直接に反応可能な官能基を表面に有する基材に対して撥水・撥油性を付与するために用いられるものである。
【0014】このような本発明の撥水・撥油性付与剤に含まれるフッ化化合物は、その構造中に上述の官能基、すなわち、アミノ基や水酸基などと直接に反応可能な化学構造部位を有するものであれば、特に限定されない。ここで、上述の各種官能基と直接に反応可能な化学構造部位としては、例えば、モノフルオロカーボン構造部位や酸無水物構造部位を挙げることができる。
【0015】ここで、モノフルオロカーボン構造部位とは、炭素原子に対して1つのフッ素原子が結合している炭素−フッ素結合構造部位(以下、”CF”と略す)をいい、具体的には下記の構造式で示される構造部位をいう。
【0016】
【化1】


【0017】なお、このようなモノフルオロカーボン構造部位において、フッ素原子が結合している炭素原子は、種々の化学構造を構成していてもよい。したがって、ここでのモノフルオロカーボン構造部位には、例えば、炭素原子部分がカルボニル基を構成している、酸フルオライド構造も含まれる。
【0018】一方、酸無水物構造部位は、カルボン酸の無水酸構造部位を云い、フッ化化合物の同一分子内にある2つのカルボキシル基間で構成されたもの、および複数のフッ化化合物のカルボキシル基間で構成されたもののいずれであってもよい。
【0019】本発明で用いられるフッ化化合物は、上述のモノフルオロカーボン構造部位や酸無水物構造部位などの化学構造部位の他に、撥水・撥油性に寄与し得る官能基として、炭素原子に対して2つのフッ素原子が結合している炭素−フッ素結合構造(以下、”CF2 ”と略す)、および炭素原子に対して3つのフッ素原子が結合している炭素−フッ素結合構造(以下、”CF3 ”と略す)のうちのいずれか、または両者を含んでいてもよい。なお、フッ化化合物がモノフルオロカーボン構造部位を含むものである場合、当該モノフルオロカーボン構造部位、CF2 およびCF3 の割合は、特に限定されるものではない。因に、CF2 およびCF3の構造を式で示すと下記のようになる。
【0020】
【化2】


【0021】上述のような化学構造部位を有するフッ化化合物のうち好ましいものとしては、モノフルオロカーボン構造部位および酸無水物構造部位のうちの少なくとも一つを有する芳香族フルオロカーボン類およびその誘導体、並びにフッ化ピッチを挙げることができる。このうち、モノフルオロカーボン構造部位を有する芳香族フルオロカーボン類としては、例えば、六フッ化ベンゼン(ヘキサフルオロベンゼン)、オクタフルオロナフタレン、デカフルオロアンスラセン、デカフルオロフェナンスレン、デカフルオロピレン並びに下記の構造式(a)および(b)で示されるものを挙げることができる。また、酸無水物構造部位を有する芳香族フルオロカーボン類としては、例えば、下記の構造式(c)および(d)で示されるものを挙げることができる。
【0022】
【化3】


【0023】また、フッ化ピッチは、ピッチをフッ素ガスを用いてフッ素化することにより製造できる公知の物質であり、例えば、特開昭62−275190号公報に開示されている。
【0024】このようなフッ化ピッチを製造するために用いられるピッチは、一般に芳香族縮合六員環平面がメチレンなどの脂肪族炭化水素基により架橋しながら積層した層構造を有するものであり、通常、石油蒸留残渣、ナフサ熱分解残渣、エチレンボトム油、石炭液化油およびコールタールなどの石油系または石炭系重質油を蒸留して沸点が200℃未満の低沸点成分を除去したもの、ナフタレン等の縮合によって合成されたもの、およびこれらをさらに熱処理や水添処理したものである。具体的には、等方性ピッチ、メソフェースピッチ、水素化メソフェースピッチ、石油系または石炭系重質油を蒸留して低沸点成分を除去した後に生成するメソフェース球体からなるメソカーボンマイクロビーズなどを挙げることができる。
【0025】上述のピッチを用いて目的とするフッ化ピッチを製造する際には、ピッチとフッ素ガスとを直接反応させる。この反応時の温度は、0〜350℃程度に設定するのが好ましく、ピッチの軟化点以下に設定するのがより好ましい。また、反応時のフッ素ガス圧は、特に限定されるものではないが、一般に0.07〜1.5気圧に設定するのが好ましい。なお、フッ素ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスを用いて希釈したものが用いられてもよい。
【0026】本発明で利用可能なフッ化ピッチとして好ましいものは、実質的に炭素原子とフッ素原子とからなり、フッ素と炭素との原子比(フッ素/炭素)が、例えば0.5〜1.8程度のものである。このようなフッ化ピッチは、次の(a)、(b)、(c)および(d)の特性を示す。
【0027】(a)粉末X線回折において、2θ=13゜付近に最大強度のピークを示し、2θ=40゜付近に最大強度ピークよりも強度の小さなピークを示す。
【0028】(b)X線光電子分光分析において、290.0±1.0eVにCFに相当するピークおよび292.5±0.9eV付近にCF2 に相当するピークを示し、CFに相当するピークに対するCF2 に相当するピークの強さの比が0.15〜1.5程度である。
【0029】(c)真空蒸留により膜を形成することができる。
(d)30℃における水に対する接触角が141°±8°である。
【0030】また、本発明では、透明樹脂状のフッ化ピッチを使用することもできる。透明樹脂状のフッ化ピッチは、例えば、フッ化ピッチをフッ素ガス雰囲気下において0.1〜3℃/分程度、好ましくは0.5〜1.5℃/分程度の昇温速度で250〜400℃程度まで昇温し、所定時間、例えば1〜18時間程度、好ましくは6〜112時間程度反応させることにより製造することができる。この方法によれば、例えば次のような特性を示す透明樹脂状のフッ化ピッチを得ることができる。
【0031】
F/C原子比:1.5〜1.7光透過率(250〜900nm):90%分子量:1,500〜2,000軟化点:150〜250℃【0032】なお、上述のフッ化ピッチを製造するための原料となるピッチとして、予めメカノケミカル的に又は化学的に強制的に酸化されたピッチ(オゾン酸化ピッチ)を用いると、上述のモノフルオロカーボン構造のうちの酸フルオライド構造を多く含むフッ化ピッチが得られる。このようなフッ化ピッチの赤外線吸収スペクトルを図1に示す。また、比較のため、通常のフッ化ピッチの赤外線吸収スペクトルを図2に示す。図1と図2を比較すると明らかなように、オゾン酸化ピッチを用いて調製されたフッ化ピッチ(図1)は、1879cm-1および1773cm-1付近に酸フルオライド構造に基づく特性吸収を示すことがわかる。
【0033】上述の化学構造部位を有する各種フッ化化合物は、2種以上のものが併用されてもよい。例えば、六フッ化ベンゼンにフッ化ピッチを溶解したものや2種以上のフッ化ピッチの混合物(例えば、通常のフッ化ピッチと透明樹脂状のフッ化ピッチとの混合物)を用いることができる。
【0034】本発明で用いられる上述のフッ化化合物は、液状に調製されている。具体的には、上述のフッ化化合物は、液状である場合(例えば、六フッ化ベンゼンの場合)はそのままで用いることができ、また、液状または固体状である場合は溶媒に溶解した状態で用いることができる。
【0035】上述のフッ化化合物を溶解するための溶媒としては、当該フッ化化合物を溶解することができるものであれば特に限定されないが、通常はフッ素系の溶媒が好ましく用いられる。ここで、フッ素系の溶媒としては、例えば、パーフルオロデカヒドロフェナンスレン、パーフルオロデカリン、パーフルオロ−1−メチルデカリン、パーフルオロジメチルナフタレン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、2,5−ジクロロベンゾトリフロライド、クロロペンタフルオロベンゼン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(例えば、旭硝子株式会社製の商品名”フロンソルブ”)、ヘキサフルオロベンゼン、1.3−ジトリフルオロメチルベンゼン、2,2,2−トリフルオロエタノール、トリフルオロメチルベンゼン、住友スリーエム株式会社製の商品名”PF5052”、パーフルオロ−2−ノルマルブチルフラン系溶媒(例えば、住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC75”)、トリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(例えば、住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC43”)、同じくトリスパーフルオロアルキルアミン系溶媒(例えば、住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC3283”、同”フロリナートFC40”および同”フロリナートFC70”)、日本モンテジソン株式会社製のガルデンDO2(商品名)並びにクロロフルオロカーボン(例えば、旭硝子株式会社製の商品名”フロン113”)などを挙げることができる。このようなフッ素系の溶媒のうち特に好ましいものは、上述のフッ化化合物を溶解し易い点でクロロペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンおよびトリスパーフルオロアルキルアミン系溶媒である。
【0036】上述のフッ化化合物を溶媒に溶解することにより当該フッ化化合物を液状に調製する場合は、通常、フッ化化合物の濃度が0.01〜50重量%になるよう設定するのが好ましく、0.1〜20重量%になるよう設定するのがより好ましい。当該濃度が0.01重量%未満の場合は、例えば本発明の撥水・撥油性付与剤を後述するような浸漬により基材に対して適用する場合に浸漬時間を長く設定する必要があり、また、基材に対して十分な撥水・撥油効果を付与しにくい場合がある。逆に、50重量%を超える場合は、本発明の撥水・撥油性付与剤の液粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難になるおそれがあり、また、溶媒中に不溶のフッ化化合物が残存し、基材に対して均一な撥水・撥油性を付与しにくい場合がある。
【0037】撥水・撥油性付与方法本発明の撥水・撥油性付与方法は、基材の表面に対し、上述の撥水・撥油性付与剤を用いて撥水・撥油性を付与するための方法である。
【0038】本発明の方法により撥水・撥油性を付与する対象となり得る基材は、その表面にアミノ基や水酸基などの、上述のモノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方と直接に反応可能な官能基を有するものであり、天然樹脂や合成樹脂などの有機材料、若しくは金属、セラミック、鉱物などの無機材料からなるものである。基材の表面は、これらの官能基を2種以上有していてもよい。なお、アミノ基と水酸基以外の官能基であって、これらと同様にモノフルオロカーボン構造等と反応可能な官能基としては、例えば、アルコラート基、フェノラート基、酸のアルカリ金属塩基、メルカプト基およびエポキシ基を挙げることができる。
【0039】基材の形状・形態は、特に限定されるものではなく、本発明は、例えば、繊維状(例えば、天然繊維や合成繊維)、当該繊維を用いた織物状または編み物状、粒状、フィルム状、板状、ブロック状、多孔質の膜状、連続孔または独立孔を有する発泡体などの各種形状・形態の基材に対して適用することができる。
【0040】上述の各種官能基のうち、アミノ基は、下記の式で示されるような第1級、第2級または第3級のアミノ基のうちのいずれであってもよい。また、ここでのアミノ基は、アミド結合およびウレタン結合をも含む概念である。
【0041】
【化4】


【0042】なお、上述の他の官能基のうち、アルコーラト基としては、例えばアルコール性水酸基をナトリウムで処理したものを例示することができる。フェノラート基としては、例えば、フェノール性水酸基をナトリウムで処理したものを例示することができる。酸のアルカリ金属塩としては、例えば、カルボン酸やスルホン酸のナトリウム塩基やカリウム塩基を例示することができる。また、エポキシ基は、グリシジル基をも含む概念である。
【0043】上述の基材の表面の官能基は、基材を構成する材料そのものが有するものであってもよいし、表面処理剤を用いて基材の表面に付与されたものであってもよい。
【0044】前者の場合、アミノ基を有する材料としては、ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリ(トリメチレンイミン)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリペプチド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミダゾール樹脂、ポリオキサゾール樹脂、ポリピロール樹脂、ポリアニリン樹脂、アラミド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などの窒素含有樹脂を例示することができる。また、水酸基を有する材料としては、フェノール樹脂やセルロースを例示することができる。アルコラート基を有する材料としては、イオン交換樹脂を例示することができる。フェノラート基を有する材料としては、アルカリ処理したフェノール樹脂を例示することができる。酸のアルカリ金属塩基を有する材料としては、イオン交換樹脂を例示することができる。メルカプト基を有する材料としては、チオコールを例示することができる。
【0045】一方、後者の場合(表面処理剤を用いる場合)、基材としては、目的とする官能基を付与するための表面処理剤と化学結合可能な化学構造を表面に有するものが用いられる。ここで、表面処理剤と反応し得る化学構造としては、例えば、水酸基、カルボキシル基およびカルボニル基などの官能基、金属酸化物、並びにSiO2 などのケイ素酸化物を挙げることができる。このような化学構造を表面に有する基材は、無機質系のものであってもよいし、有機質系のものであってもよい。上述の化学構造を表面に有する無機質系の基材としては、例えば、ガラス、セラミック、ステンレス,ニッケルおよびアルミニウムなどの金属、並びにシリカを挙げることができる。一方、上述の化学構造を表面に有する有機質系の基材としては、例えばフェノール樹脂等の樹脂製基材を挙げることができる。
【0046】本発明の撥水・撥油性付与方法を適用する場合において、基材がその表面に上述の官能基を有していない場合は、先ず、上述の官能基を付与可能な表面処理剤を用いて当該基材の表面を処理する。ここで用いる表面処理剤は、基材の表面に存在する官能基と反応し得かつ基材に付与すべき官能基を有するものであり、結果的に基材の表面に目的とする官能基を付与することができるものである。
【0047】このような表面処理剤は、上述の条件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、付与するべき官能基を有するシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤および有機クロム系カップリング剤を挙げることができる。
【0048】例えば、基材に付与すべき官能基がアミノ基の場合、表面処理剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン,n(ジメトキシメチルシリルプロピル)−エチレンジアミンなどのアミノ基を有するシランカップリング剤、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートなどのアミノ基を有するチタネート系カップリング剤、下記の構造式で示されるクロミッククロリド系化合物などのアミノ基を有する有機クロム系カップリング剤が用いられる。
【0049】
【化5】


【0050】なお、表面処理剤は、2種以上のものが併用されてもよい。
【0051】また、表面処理剤としては、上述のようなもの以外に、例えば目的とする官能基を付与可能なコーティング材料が用いられてもよい。この場合、基材の表面には、コーティング材料による被膜が形成され、当該被膜の表面に所定の官能基が配置されることになる。なお、基材表面の意匠性を維持する必要がある場合には、コーティング材料としてクリヤー系の被膜を形成することができるものを用いるのが好ましい。
【0052】上述の表面処理剤を用いて上述の基材を処理する場合は、表面処理剤中に基材を浸漬する方法、或いは基材に対して表面処理剤を塗布する方法が採用され得る。表面処理剤を塗布する場合には、例えば、刷毛、各種ローラー、スプレー等を用いることができる。このように、表面処理剤は、浸漬または塗布などの一般的な方法により基材に対して容易に適用することができるので、基材の表面全体に適用することは勿論、基材の表面の一部分のみに対しても容易に適用することができる。
【0053】基材を上述の表面処理剤により処理する際の処理温度は、表面処理剤の種類等により異なり、特に限定されるものではないが、通常、室温〜50℃に設定するのが好ましい。また、処理時間は、表面処理剤の種類や表面処理剤の処理方法により異なるが、例えば表面処理剤中に基材を浸漬する場合は、浸漬時間を0.1〜3時間に設定するのが好ましい。
【0054】なお、上述の表面処理剤により処理された基材は、次の工程に移る前に、予め乾燥させておくのが好ましい。基材の乾燥条件は、基材の種類や耐熱温度にもよるが、通常、80〜150℃で1〜3時間に設定するのが好ましい。
【0055】このようにして表面処理剤により表面が処理された基材は、当該処理された表面部分に表面処理剤に含まれるアミノ基等の所定の官能基が付与される。
【0056】基材に対して撥水・撥油性を付与する場合には、表面に所定の官能基を有する上述の基材の当該表面または表面処理剤により処理された基材の表面を本発明の撥水・撥油性付与剤を用いて処理する。
【0057】本発明の撥水・撥油性付与剤を上述の基材の表面に対して適用する場合は、撥水・撥油性付与剤中に基材を浸漬する方法、或いは基材に対して撥水・撥油性付与剤を塗布する方法が採用され得る。撥水・撥油性付与剤を塗布する場合には、例えば、刷毛、各種ローラー、スプレー等を用いることができる。このように、本発明の撥水・撥油性付与剤は、浸漬または塗布などの一般的な方法により基材に対して容易に適用することができるので、基材の表面の一部のみ(例えば、上述の表面処理剤による処理が施された表面部分など)に対して選択的にかつ容易に適用することもできる。
【0058】基材を本発明の撥水・撥油性付与剤により処理する場合、その処理温度は特に限定されるものではなく、通常は常温で処理することができる。但し、所望により、常温〜撥水・撥油性付与剤に使用するフッ化化合物または溶媒の沸点程度に加熱して処理することもできる。また、処理時間は、本発明の撥水・撥油性付与剤を基材に対して適用する方法により異なるが、例えば撥水・撥油性付与剤中に基材を浸漬する場合は、浸漬時間を1〜24時間に設定するのが好ましい。
【0059】なお、本発明の撥水・撥油性付与剤により処理された基材の表面は、所望により、紙や布帛などを用いて擦られてもよい。このように処理すると、基材の表面に付与される撥水・撥油効果をより高めることができる場合がある。
【0060】本発明の方法は、本発明に係る撥水・撥油性付与剤を用いて基材を処理しているため、当該基材の表面に対して良好な撥水・撥油性を付与することができる。また、その結果として、基材の吸水性を効果的に抑制することもできる。さらに、この方法により付与される撥水・撥油性は、上述の撥水・撥油性付与剤中に含まれるフッ化化合物が基材側の官能基と化学反応可能であるため、耐久性が良好である。
【0061】なお、本発明の撥水・撥油性付与方法は、そこで利用する本発明の撥水・撥油性付与剤中に含まれるフッ化化合物が上述のモノフルオロカーボン構造および上述の酸無水物構造のうちの少なくとも一方を含むものである場合、基材側の官能基が上述の各種官能基以外の官能基であっても、モノフルオロカーボン構造または酸無水物構造と反応し得る官能基を表面に有する(または、表面処理剤により付与された)基材に対しては同様に適用することができる。
【0062】撥水・撥油材本発明の撥水・撥油材は、基材と、フッ化化合物による撥水層とを備えている。
【0063】ここで、基材は、撥水層を構成するフッ化化合物と反応可能な官能基を表面に有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば上述のような基材、すなわち、それ自体がアミノ基、水酸基、アルコラート基、フェノラート基、酸のアルカリ金属塩基、メルカプト基およびエポキシ基などの官能基を表面に有する基材、またはこのような官能基が表面処理剤を用いて表面に付与された基材である。なお、基材の形状・形態は、特に限定されるものではなく、既述のような各種の形状・形態である。
【0064】一方、撥水層を構成するフッ化化合物は、本発明の撥水・撥油性付与剤に用いられるものと同様のものであり、それに含まれる上述の化学構造部位が基材側の官能基と化学結合している。
【0065】なお、基材の表面は、その全体が撥水層を有していてもよいし、一部分のみが撥水層を有していてもよい。
【0066】本発明の撥水・撥油材は、例えば、上述の基材に対して、本発明に係る撥水・撥油性付与方法を適用することにより、容易に製造することができる。また、このような本発明の撥水・撥油材は、撥水層、すなわち撥水・撥油性付与剤により表面処理された部位が良好な撥水性、撥油性および防汚性を発揮し得、また、その結果として当該部位の吸水性が効果的に抑制され得る。
【0067】さらに、この撥水・撥油材の撥水・撥油性は、基材側の官能基と撥水層側のフッ化化合物とが化学反応可能であるため、耐久性が良好である。
【0068】なお、本発明の撥水・撥油材は、それを製造するために用いられる本発明の撥水・撥油性付与剤中に含まれるフッ化化合物が上述のモノフルオロカーボン構造または上述の酸無水物構造を有するものである場合、基材側の官能基が上述の各種官能基以外の官能基であっても、モノフルオロカーボン構造または酸無水物構造と反応し得るものであれば同様に構成することができる。
【0069】
【実施例】
実施例1ポリアミド樹脂であるUBE NYLON 1022D(宇部興産株式会社製の商品名)の帯状成形体(大きさ=13×50×1mm)を試験片として多数個作製し、この試験片をアセトンを用いて清浄にした後に六フッ化ベンゼンに常温で2時間浸漬した。
【0070】次に、試験片を六フッ化ベンゼンから取り出し、■そのまま直ちに乾燥させた試験片群(試験片群I)、■キムワイプ(十条キンバリー株式会社製の商品名)を用いて表面を緩やかに10回拭いた試験片群(試験片群II)、■キムワイプを用いて表面を強く10回拭いた試験片群(試験片群III)、および■アセトン洗浄後乾燥した試験片群(試験片群IV)の4群に分け、各試験片群の表面の撥水性を調べた。
【0071】なお、撥水性は、液滴法に従い、FACE接触角計(協和界面科学株式会社製のCA−A)を用いて接触角を測定することにより評価した。結果を表1に示す。
【0072】実施例2実施例1で用いたものと同様の試験片を多数個作製し、これをフッ化ピッチを20重量%含む六フッ化ベンゼン溶液に常温で2時間浸漬した。なお、フッ化ピッチとしては、三菱ガス化学株式会社製のナフタレンピッチ(軟化点=327℃)を90℃で60時間フッ素ガス中で反応させて得られた白色粉末状のものを用いた。このフッ化ピッチは、F/C原子比が1.23、比重が1.98、軟化点が210℃、平均粒子径が8μm、屈折率が1.39、および400kgf/cm2 の成形圧で成形した平板状サンプルの水滴法による接触角が145°であった。
【0073】次に、試験片を実施例1の場合と同様の4つの群に分け、実施例1と同様にして撥水性を調べた。結果を表1に示す。
【0074】実施例3フッ化ピッチを20重量%含む六フッ化ベンゼン溶液に代えてフッ化ピッチ(実施例2で用いたものと同様のもの)を20重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(旭硝子株式会社製の”アフルードE−18”)を用いた点以外は実施例2と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】


【0076】実施例4浸漬時の温度を70℃に変更した点を除いて実施例2と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表2に示す。
【0077】実施例5浸漬時の温度を70℃に変更した点を除いて実施例3と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】


【0079】実施例6実施例1で用いたものと同様の試験片を多数個作製し、この試験片をアセトンを用いて清浄にした後に六フッ化ベンゼンに常温で24時間浸漬した。
【0080】次に、試験片を六フッ化ベンゼンから取り出し、■そのまま直ちに乾燥させた試験片群(試験片群V)と、■アセトン洗浄後に50℃で乾燥した試験片群(試験片群VI)との2群に分け、各試験片群の表面の撥水性および撥油性を調べた。ここで、撥水性および撥油性は、実施例1の場合と同様に評価した。なお、撥油性の評価では、試験片の表面に滴下する試料としてベンゼンを用いた。結果を表3に示す。
【0081】実施例7実施例1で用いたものと同様の試験片を多数個作製し、これをフッ化ピッチ(実施例2で用いたものと同様のもの)を10重量%含む六フッ化ベンゼン溶液に常温で24時間浸漬した。その後、試験片を実施例6の場合と同様の2つの群に分け、実施例6と同様にして撥水性および撥油性を調べた。結果を表3に示す。
【0082】実施例8フッ化ピッチを10重量%含む六フッ化ベンゼン溶液に代えてフッ化ピッチ(実施例2で用いたものと同様のもの)を10重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(旭硝子株式会社製の”アフルードE−18”)を用いた点以外は実施例7と同様に操作し、試験片の撥水性および撥油性を調べた。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】


【0084】実施例9浸漬時の温度を70℃に変更した点を除いて実施例7と同様に操作し、試験片の撥水性および撥油性を調べた。結果を表4に示す。
【0085】実施例10浸漬時の温度を70℃に変更した点を除いて実施例8と同様に操作し、試験片の撥水性および撥油性を調べた。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】


【0087】実施例11実施例1で用いたものと同様の試験片を多数個作製し、これをフッ化ピッチ(実施例2で用いたものと同様のもの)を1重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(旭硝子株式会社製の”アフルードE−18”)に常温で30分間または2時間浸漬した。その後、試験片をアセトン洗浄した後に50℃で乾燥し、実施例1と同様にしてその撥水性を調べた。結果を表5に示す。
【0088】実施例12浸漬時の温度を70℃に変更した点以外は実施例11と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】


【0090】実施例13フッ化ピッチ(実施例2で用いたものと同様のもの)を0.1重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(旭硝子株式会社製の”アフルードE−18”)を用いた点以外は実施例11と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表6に示す。
【0091】実施例14浸漬時の温度を70℃に変更した点以外は実施例13と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表6に示す。
【0092】
【表6】


【0093】比較例1実施例1〜14で用いた試験片について、浸漬処理する前の撥水性および撥油性を調べたところ、接触角はそれぞれ71.7°および16.8°であった。
【0094】実施例15ポリウレタン樹脂であるADAPTE−No.1(国際ケミカル株式会社製の商品名)の板状成形体(大きさ=20×15×5mm)を試験片として多数個作製し、これをフッ化ピッチ(実施例2で用いたものと同様のもの)を10重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(旭硝子株式会社製の”アフルードE−18”)に常温で30分間または2時間浸漬した。その後、試験片をアセトン洗浄した後に50℃で乾燥し、実施例1と同様にしてその撥水性を調べた。結果を表7に示す。
【0095】実施例16浸漬時の温度を70℃に変更した点以外は実施例15と同様に操作し、試験片の撥水性を調べた。結果を表7に示す。
【0096】
【表7】


【0097】比較例2実施例15,16で用いた試験片について、浸漬処理する前の撥水性を調べたところ、接触角は71°であった。
【0098】実施例17基材として30×30×5mmの大きさのフロート板ガラスを多数用意し、これをシランカップリング剤であるN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製の商品名”KBM603”)の1%水溶液に1時間浸漬した後に130℃で1時間乾燥して試験片群を得た。
【0099】次に、フッ化ピッチを1重量%および5重量%含む2種類の六フッ化ベンゼン溶液をそれぞれ調製し、これに得られた試験片群を1時間、2時間および24時間浸漬した。なお、フッ化ピッチとしては、三菱ガス化学株式会社製のナフタレンピッチ(軟化点=327℃)を90℃で60時間フッ素ガス中で反応させて得られた白色粉末状のものを用いた。このフッ化ピッチは、F/C原子比が1.23、比重が1.98、軟化点が210℃、平均粒子径が8μm、屈折率が1.39、および400kgf/cm2 の成形圧で成形した平板状サンプルの水滴法による接触角が145°であった。
【0100】上述の六フッ化ベンゼン溶液から試験片群を取り出して液滴を除去し、エアードライヤーを用いて乾燥させた。このように処理された試験片群の各試験片について、接触角計(協和界面科学株式会社製の”CA−A型”)を用いて水の接触角(接触角I)を測定した。
【0101】また、各試験片について、その表面を十条キンバリー株式会社製の商品名”キムワイプ”を用いて10〜15回強く拭き、その後に同様にして水の接触角(接触角II)を測定した。結果を表8に示す。なお、処理前のフロート板ガラスについて同様に測定した水の接触角は40.2°であった。
【0102】
【表8】


【0103】実施例18フェノール樹脂として鐘紡株式会社製の”ベルパールS−899”を用い、これを硬化条件=160℃×50分、成形圧力=150kg/cm2 の条件で板状に成形して30×30×5mmの大きさのフェノール樹脂板を多数作成した。得られたフェノール樹脂板を基材とし、これを実施例17の場合と同様にシランカップリング剤で処理して試験片群を得た。
【0104】次に、実施例17で用いたものと同様の2種類の六フッ化ベンゼン溶液と、実施例17で用いたものと同様のフッ化ピッチを10重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(住友スリーエム株式会社製の”フロリナートFC43”)とを準備し、これらのそれぞれに試験片群を2時間浸漬した。その後、試験片群を実施例17の場合と同様に処理し、実施例17と同様の方法で水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表9に示す。なお、処理前のフェノール樹脂板について同様に測定した水の接触角は、88.0°であった。
【0105】実施例19基材であるフェノール樹脂板として実施例18で用いたフェノール樹脂板を180℃で1時間さらに熱処理したものを用いた点以外は実施例18の場合と同様にし、水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表9に示す。なお、処理前のフェノール樹脂板について同様に測定した水の接触角は、86.0°であった。
【0106】実施例20基材として、大きさが30×30×0.6mmの市販のステンレス板(SUS430)を用いた点以外は実施例18の場合と同様にし、水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表9に示す。なお、処理前のステンレス板について同様に測定した水の接触角は、80.3°であった。
【0107】実施例21基材として、ショットブラスト処理(#80)された、大きさが30×30×0.6mmの市販のステンレス板(SUS430)を用いた点以外は実施例18の場合と同様にし、水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表9に示す。なお、処理前のステンレス板について同様に測定した水の接触角は、123.7°であった。
【0108】実施例22基材として、大きさが30×30×0.6mmの市販のニッケル板を用いた点以外は実施例18の場合と同様にし、水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表9に示す。なお、処理前のニッケル板について同様に測定した水の接触角は、90.7°であった。
【0109】実施例23基材として、大きさが30×30×0.6mmの市販のアルミニウム板を用いた点以外は実施例18の場合と同様にし、水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表9に示す。なお、処理前のアルミニウム板について同様に測定した水の接触角は、90.3°であった。
【0110】
【表9】


【0111】実施例24チタネート系カップリング剤であるイソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート(味の素株式会社製の商品名”プレンアクトKR44”)を20重量%含むイソプロパノール溶液を調製し、これに実施例17で用いたものと同様のフロート板ガラスの多数個を1時間浸漬した。その後、フロート板ガラスをエアードライヤーを用いて乾燥させ、試験片群を得た。
【0112】次に、実施例17で用いたものと同様のフッ化ピッチを5重量%および10重量%含む2種類の六フッ化ベンゼン溶液をそれぞれ調製し、これに得られた試験片群を1時間浸漬した。その後、上述の六フッ化ベンゼン溶液から試験片群を取り出して液滴を除去し、エアードライヤーを用いて乾燥させた。このようにして処理された試験片群について、実施例17と同様の方法で水の接触角(接触角Iおよび接触角II)を測定した。結果を表10に示す。
【0113】
【表10】


【0114】実施例25OH基を有するフェノール樹脂として鐘紡株式会社製の商品名”ベルパールS−895”を用い、これを硬化条件=160℃×50分、成形圧力=100kg/cm2 の条件で板状に成形して30×30×5mmの大きさのフェノール樹脂板を得た。得られたフェノール樹脂板を試験片とし、フッ化ピッチを1重量%含む六フッ化ベンゼン溶液(溶液I)、フッ化ピッチを5重量%含む六フッ化ベンゼン溶液(溶液II)およびフッ化ピッチを10重量%含むトリスパーフルオロn−ブチルアミン系溶媒(住友スリーエム株式会社製の商品名”フロリナートFC−43”:溶液III)に別々に2時間浸漬した。なお、フッ化ピッチとしては、実施例2および実施例17で用いたものと同様のものを用いた。
【0115】次に、試験片を各溶液から取り出して液滴を除去し、さらにエアドライヤーを用いて乾燥させた。このようにして処理された各試験片について、接触角計(協和界面科学株式会社製の”CA−A型”)を用いて水の接触角(接触角I)を調べた。また、各試験片について、その表面を十条キンバリー株式会社製の商品名”キムワイプ”を用いて10〜15回強く拭き、その後同様にして水の接触角(接触角II)を調べた。結果を表11に示す。なお、浸漬処理前の試験片の接触角は、74°であった。
【0116】
【表11】


【0117】実施例26六フッ化ベンゼン/フッ素系溶媒(旭硝子株式会社製の商品名”AK225”)=1/9の重量比で混合した溶媒にフッ化ピッチを加え、フッ化ピッチを1重量%含む溶液を得た。この溶液にOH基を有する濾紙(ADVANTEC東洋製の商品名”5C”:185cm品)を2時間浸漬し、その後、濾紙を110℃で2時間真空乾燥した。浸漬の前後における濾紙の重量増加率を測定し、これをフッ化ピッチ付着率とした。また、実施例25と同様の方法により浸漬後の濾紙の接触角を調べた。結果を表12に示す。
【0118】次に、浸漬処理された濾紙を六フッ化ベンゼンに浸漬してソックスレー抽出を10時間実施し、その後110℃で2時間真空乾燥して同様にフッ化ピッチ付着率と接触角とを調べた。結果を表12に示す。
【0119】実施例27濾紙に代えてアミノ基を有する絹を用い、実施例26と同様の操作を実施した。なお、絹としては、JIS染色堅ろう度試験用のもの(JIS L 0803準拠の2−2 14目付)を用いた。
【0120】実施例28濾紙に代えてアミノ基を有する毛を用い、実施例26と同様の操作を実施した。なお、毛としては、JIS染色堅ろう度試験用のもの(JIS L 0803準拠のもの)を用いた。
【0121】実施例29濾紙に代えてOH基を有する麻布を用い、実施例26と同様の操作を実施した。
【0122】実施例30濾紙に代えてOH基を有する綿布を用い、実施例26と同様の操作を実施した。綿布としては、JIS染色堅ろう度試験用のもの(JIS L 0803準拠のかなきん3号)を用いた。
【0123】
【表12】


【0124】
【発明の効果】本発明の撥水・撥油性付与剤は、アミノ基などの官能基と反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を含んでいるので、表面にアミノ基などの官能基を有する基材の当該表面に対して簡便に撥水・撥油性を付与することができる。
【0125】また、本発明に係る他の撥水・撥油性付与剤は、モノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方を有するフッ化化合物を含んでいるので、モノフルオロカーボン構造および酸無水物構造のうちの少なくとも一方と反応可能な官能基を有する基材に対して簡便に撥水・撥油性を付与することができる。
【0126】また、本発明に係る撥水・撥油性付与方法は、アミノ基などを付与可能な表面処理剤を用いて基材を処理し、その後当該表面を本発明の撥水・撥油性付与剤を用いてさらに表面処理しているので、基材の表面に対して簡便に撥水・撥油性を付与することができる。
【0127】さらに、本発明の撥水・撥油材は、フッ化化合物による撥水層が基材の表面に配置され、しかも基材は当該フッ化化合物と化学反応可能な官能基を表面に有しているので、良好な撥水・撥油性を示す。
【0128】また、本発明の他の撥水・撥油材は、アミノ基などの官能基を表面に有する基材を備え、その表面がそこの官能基と化学反応可能な化学構造部位を有するフッ化化合物を用いて処理されているため、良好な撥水・撥油性を示す。

 

 

 

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